【キーマンに取材】ヤフー株式会社が取り組むwithコロナ時代の健康経営とは?
ヤフー株式会社では『UPDATEコンディション』をキーワードに「働く人の身体の健康(安全)と心の健康(安心)をUPDATEするというコンセプトを掲げ、社員の心身のケアを行っています。この度の取材では先進的に健康経営に取り組んできたリーディングカンパニーのヤフー株式会社グッドコンディション推進室の市川 久浩氏、川村 由起子氏にコロナ禍での健康促進のお取り組みを中心にお話をお伺いしました。
インタビュイー
2004年ヤフーに中途入社。カスタマーサポート部門責任者、CS子会社取締役、(株)IDCフロンティア 経営戦略本部長などを経て、2017/10から現職。ヤフー社員の健康推進、産業保健、コンディショニングマネジメント業務を統括するとともに、健診センターやYG健康保険組合の立ち上げ等を担当。
大学在学中よりIT企業に勤め、デザイナー/アートディレクターとして新規事業立ち上げに従事。2005年ヤフー株式会社に参画。プロジェクトメンバー共にグッドデザイン賞を2年連続受賞。2016年 内閣官房内閣広報室主催 PDCA講座 講師。2018年より健康経営推進プロジェクトマネージャー就任。以後3年連続健康経営銘柄選定。健康運動指導士。
-本日はよろしくお願い致します。まずは新型コロナウイルスの影響により生じた働き方の変化について教えてください。-
市川さん:ヤフーでは、新型コロナウイルスの影響が広まった昨年、「新しい働き方」の考え方を明確にしました。一つ目は社員の健康・安全の確保を最優先に活動すること。今までも最優先ではありましたが、改めてCEO川邊が明確に発信しました。二つ目は働く環境を基本的にオンラインにシフトしていくこと。「オンラインへの引越し宣言」を行いました。
-ヤフーではこれまで健康経営を積極的に行ってきた経緯がありますが、オンライン環境では健康促進のお取り組みに変化はありましたか?-
市川さん:オンライン環境による、コンディション面の変化、生活リズム・活動量の変化、コミュニケーション方法の変化の、大きく3つの変化に対応してきました。コンディション面はリモートワークにより社員の健康状態をマネージャー、管理職が把握することが難しくなりました。そのため管理職1,500人を対象に「元気」「やる気」をテーマにオンライン環境下での健康リテラシーを高めるオンライン研修を実施しました。また、オンラインで産業医に健康相談ができるインフラを整備し、不調時に相談しやすい環境を整えました。
-働き方が大きく変わりテレワークではマネジメントのやり方も大きく変わる側面がありそうですね。-
市川さん:そうですね。管理職研修では、健康リテラシーを高める内容に加え、メンバーの健康を気遣う彼らの負担にも配慮したメッセージを伝えました。メンバーやチームの健康を気遣うあまり、管理職自身に負担が偏り、彼らの健康面に影響を及ぼしてしまうと本末転倒です。「グッドコンディション推進室としては、皆さんの健康も大事です。皆さんからの相談にもしっかり対応します」というような、困った時には早めに相談を促すコミュニケーションを取るようにしています。
-コロナ禍でのコンディション面のケアのお取り組みに対して社員の方達の反響はいかがですか?-
市川さん:セミナー実施や、健康相談窓口の社内への露出を増やしたことにより、マネージャー、管理職から、自分のメンバーに対する健康相談が増えました。管理職の健康管理に対するセンサーが敏感になり、メンバーの健康状態に意識が向くことで、コンディションが下がっている社員の早期発見につながっていると考えています。
-コンディションの管理をする上で指標とされているものがあれば教えてください。-
市川さん:残念ながらベストコンディションを定量的に計る方法は見つけられていないです。現時点で測定可能な指標を敢えてあげるなら、プレゼンティーズム(疾病就業)とアプセンティーズム(病欠)になるかと思います。ですが、我々が目指しているところは、その先にあると考えています。定性的なものにはなりますが、ヤフーが目指すベストコンディションとは「仕事とプライベートの分け隔てなく、ベストな状態で何かに打ち込めている状態」と考えています。
-ヤフーではコンディション状態と仕事のパフォーマンスはどのような関係性があると考えていらっしゃるのでしょうか?-
市川さん:良いコンディションは、人が仕事で能力を発揮するための土台だと考えています。我々は会社の戦力は人数✖️能力で決まると考えており、能力として、経験・知識・人間力・スキルを身につけることはもちろんですが、その能力を社員一人一人が発揮するためにはコンディションが整っていることが必須だと考えています。
川村さん:社員の人たちが元気な状態に持っていけると仕事も楽しくできると考えています。例えば歯が痛いと痛みが原因で仕事に集中ができません。社員一人一人が自身の健康状態をふりかえり、健康状態が悪化している場合は早期に気づき処置をする。加えて予防の意識を作るサポートができればと考えています。国の施策もうまく活用し、例えばBMIの数値やメタボリックシンドロームの予防・改善のための特定保健指導などと連携した取り組みを行い、戦力を高めて行けたらと考えています。
-コロナ禍に入ってから社員の方の健康状態に変化はありましたか?-
市川さん:ヤフーではコンディションに関する従業員アンケートを定期的に行っています。その結果ではコロナ禍に入ってからは通勤がなくなったことで歩数などの活動量が減ったり、生活リズムが変わったりして、体重が増えた人や、在宅勤務による、肩こり・腰痛・眼精疲労を感じている人が増加しています。
-社員の歩数についてはデータ集計などされているのでしょうか?-
市川さん:Zホールディングスグループの健康保険組合で提供しているヘルスケアアプリを活用し、集計しています。このアプリを活用し社員の歩数の推移を確認したり、歩数を目標値にしたウォーキングイベントにも活用しています。
-コロナ禍でも健康イベントは行われているのでしょうか?-
川村さん:これまでやってきた取り組みをオンライン化しているものがあります。ヤフーでは、社員自身の健康への気づきを目的として、2019年から10月に、ウォーキングイベントなどを含む健康増強月間「UPDATEコンディション月間」を開催しています。コロナ禍の前にはオフィスを軸とした施策、身長ごとに適した歩幅が確認できるスペースやオフィスでの階段、社内レストランの利用の推奨などを行ってきました。しかし昨年はコロナ禍でオフィスを軸にした開催は困難になりましたので、Zoomを使用したオンラインイベントを開催し、オンラインでストレッチや健康リテラシーを高めるワークショップやマインドフルネスなどを実施しました。
-オンライン化したことで参加者の方に変化はありましたか?-
川村さん:参加者を増やし、行動変容につなげるきっかけを増やすことができました。例えば、2020年のイベント後のアンケートでは『イベントを目にした人が健康を振り返るきっかけになった人』は前年比4%増加、『イベントを目にした人で歩数が増えた人』は前年比13%増加しました。このような形でイベントの参加率を上げ、行動変容につながる取り組みになりました。
-参加者を増やすために工夫されたポイントはありますか?-
川村さん:全社朝礼や主要拠点が参加している会議での周知に加え、ウォーキングイベントで利用している健保提供のヘルスケアアプリの登録率を90%まで増やしました。また、6月に実施したコンディションに関する従業員アンケートから、新型コロナウイルスの影響で歩数が大きく減ったとの回答を参考に、達成歩数を前年の8000歩からうつ病予防効果が期待される4000歩に調整し、今ある社員の状態に合わせ設計する工夫を行いました。
-今後予定されているお取り組みは何かありますか?-
市川さん:直近では体組成計の貸与をします。健康意識を高めるにはまずは自分の状態の把握から始めることが大切なので、1,500〜2,000台ほど無償で貸与し、さらに体重測定が日常習慣になるような仕掛けを考えています。
-オンライン環境をベースにして働く中での社内コミュニケーションについても伺いたいのですが、テレワークでは帰属意識が希薄化しやすく、コミュニケーション機会の創出が大事になっていると考えています。オンライン環境でのコミュニケーション方法はどのようなことをされているのですか?-
市川さん:以前より1on1ミーティングを行う仕組みとカルチャーはあったので、それをオンラインでも継続することを会社としては求めています。また、業務以外でのコミュニケーション機会として、オンライン懇親会やお茶会などの実施を推奨しています。オンライン懇親会のメニュー開発はヤフーの社内レストランが行っていて、ヤフーオリジナルメニューです。この懇親会費用は会社が費用補助をしています。家庭の事情で夜の時間帯は参加ができない社員もいるので、懇親会メニューは昼・夜・お茶会と複数の選択肢のあるメニューとなっています。2021年1月〜3月までの懇親会利用数は、ほぼ全社員が1回は利用した数で、人気の取り組みになっています。
ヤフーは世の中に健康経営というワードが普及していない段階で社員の健康促進に着目されているかと思います。取り組みを継続するためのポイントがあれば教えてください。
市川さん:取り組みを継続するのに一番大切なのはカルチャーです。そして、カルチャーを醸成するにはトップの意思と、取り組みをサポートする環境が大切だと思います。ヤフーでは2005年10月に、会社の成長に合わせた労務体制を整えるために、健康推進センターを立ち上げました。2012年4月より宮坂 学さんの体制になってからはコンディション向上、健康促進がカルチャーとして根付くようになっていきました。もともと宮坂 学さんはアスリート気質な方だったので、部署の名前も健康推進センターからグッドコンディション推進室に変わり、取り組みを総じてUPDATEコンディションと呼ぶようになりました。宮坂 学さん自らCCO(Chief Condition Officer)に就任し、発信を行っていくようになりました。2016年10月にはオフィスの移転もありましたが、オフィスのコンセプトにグッドコンディションという考えも取り入れ、同年10月にはオフィスビル内に内科のクリニックの誘致を行いました。そして現在の代表取締役社長の川邊 健太郎さんの体制でもUPDATEコンディションの取り組みは継続をし、健康保険組合や、健診センターを立ち上げ、環境が整ってきました。現在ではオンライン環境でのコンディション向上、健康促進を行う取り組みを行っています。
川村さん:根本にある考えにはなりますが、経営の土台として、健康経営が重要であると考えています。従業員とご家族の幸せの基盤である健康を整え、事業成長を加速させていくという目的から社員の健康をサポートしています。そして、継続的な取り組みの実現の背景にはトップが理解を示し、牽引をしていることが大きいと思います。あとは、オフィス、IR、健康保険組合などヤフーでは健康に関わる部署が複数あり、UPDATEコンディションという共通ミッションを軸に他の部署と連携を取りながら進めている点も大きいと考えています。
市川さん:今は全人類が健康について着目している大きな変換点だと思います。これから健康経営を始めようとしている企業にとっては、社員とそのご家族がそれぞれの健康について今まで以上に意識が高くなっているこの時期、各社の取り組みが定着しやすい良い機会ではないかと思います。
編集後記:
ヤフー株式会社の健康経営はトップのマインドがベースとなり、時間を掛けて具現化された独自のコンセプトが確立されている印象を強く受けました。だからこそ、同社では健康経営に対して会社や部署、社員一人一人が一丸となって取り組まれているのだと思います。取材を通じて、持続的な健康経営には担当部署やトップが推進していく中で孤立せずに、会社全体がチームプレーで取り組むことが大切であることを学ばせて頂きました。
この度は取材にご協力頂きありがとうございました。